概要
1. 概要
先天性胆汁酸代謝異常症とは、一次胆汁酸であるコール酸とケノデオキシコール酸の合成経路を担う各酵素の先天的な機能異常により、胆汁酸合成経路の中間代謝産物である異常胆汁酸もしくは胆汁アルコールの肝細胞内蓄積が生じた結果、胆汁うっ滞性肝障害を引き起こす疾患である。
新生児・乳児早期に胆汁うっ滞性肝障害型から診断される「新生児胆汁うっ滞型」と、幼児期以降に原因不明の慢性肝疾患・肝硬変から診断される「慢性肝疾患型」の2病型がある。症状は、典型的には直接ビリルビン優位の黄疸、肝腫大、灰白色便などを認め、進行すれば肝硬変、肝不全に移行する。
現在、下記表に示す8種類の酵素に起因した疾患が確認されている。このうち、国内で確認されているのはHSD3B7欠損症、SRD5B1(AKR1D1)欠損症、CYP27A1欠損症、CYP7B1欠損症、BAAT欠損症の5疾患である。診断のための特殊検査としては、尿や血清を用いて各疾患に特徴的な異常胆汁酸もしくは胆汁アルコールを、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)や液体クロマトグラフ-タンデム質量分析法(LC/MS)で測定する。各疾患に特異的な異常胆汁酸が検出された場合、疑われる疾患の責任遺伝子を解析し確定診断へ繋げる。
疾患名 | 上昇する主な胆汁酸塩、脂質 | 責任遺伝子 |
---|---|---|
3β-hydroxy Δ5 -C27-steroid dehydrogenase/isomerase 欠損症 |
G-Δ5-3β,7α,12α-triol-3S T-Δ5-3β,7α,12α-triol-3S |
HSD3B7 |
Δ4-3-oxosteroid 5β-reductase 欠損症 |
GCA-Δ4-3-one
TCA-Δ4-3-one |
SRD5B1
(AKR1D1) |
sterol 27-hydroxylase 欠損症
(脳腱黄色腫症:CTX) |
C27_THC-3G
コレスタノール |
CYP27A1 |
oxysterol 7α-hydroxylase 欠損症 | T-Δ5-3β-ol-3S | CYP7B1 |
bile acid-CoA: aminoacid N-acyltransferase 欠損症 | 非抱合型胆汁酸 | BAAT |
bile acid-CoA ligase 欠損症 | 非抱合型胆汁酸 | SLC27A5 |
α-methylacyl CoA racemase 欠損症 | C27_DHCA、C27_THCA | AMACR |
cholesterol 7α-hydroxylase 欠損症 | LDLコレステロール、中性脂肪 | CYP7A1 |
2. 病因
現在、表に示す8種類の酵素異常に起因する疾患が確認されている。胆汁酸は、肝臓内でコレステロールから17種類の酵素による代謝過程を経て産生される。この代謝経路のいずれかに障害がある場合、正常な胆汁酸は産生されず、中間代謝産物である異常胆汁酸や胆汁アルコールが蓄積する。胆汁アルコールは下等脊椎動物における主要な胆汁成分とされるが、人においても胆汁酸の中間代謝産物として尿中や胆汁中に微量検出されることが知られている。正常な胆汁酸が産生されないと、胆汁の分泌量が減少し、腸管での脂肪や脂溶性ビタミンの吸収も低下する。さらに、胆汁酸合成障害によって生じる異常胆汁酸や胆汁アルコールの蓄積は、肝細胞に対して毒性を示し、肝障害を引き起こす。
3. 症状
CYP27A1欠損症を除く7疾患は、乳児期または小児期に発症する。これらは、胆汁酸合成障害と異常胆汁酸による肝毒性の結果、新生児胆汁うっ滞症、神経障害、進行性の肝障害などを呈する。一方、CYP27A1欠損症では、新生児期や乳児期に黄疸を認める例も報告されているが、その症状は一過性であり、主に成人期に高コレステロール血症を呈することが知られている。病型は以下の2つに大別される。
- 新生児胆汁うっ滞型:新生児期・乳児早期に胆汁うっ滞性肝障害として診断される。
- 慢性肝疾患型:進行が緩徐で、幼児期以降に原因不明の慢性肝疾患や肝硬変から診断される。
先天性胆汁酸代謝異常症の大部分を占める新生児胆汁うっ滞型では、生下時から持続する黄疸、肝腫大、灰白色便、出血傾向(ビタミンK欠乏による)などが主な症状である。この型にはSRD5B1欠損症およびCYP7B1欠損症が該当し、無治療では急速に肝硬変へ進展する。HSD3B7欠損症も大部分がこの型に分類されるが、前述の2疾患に比べ進行は比較的緩徐であり、乳児期に肝硬変へ進展することはまれである。ただし、無治療であれば肝硬変に進行する点は同様である。
慢性肝疾患型では、肝硬変の程度に応じて症状が異なり、易疲労感、黄疸、腹水、脾腫、出血傾向、胃食道静脈瘤に伴う吐血や黒色便などがみられる。HSD3B7欠損症の一部では、胆汁うっ滞性肝障害の進行が緩徐な例もあり、幼児期以降に原因不明の慢性肝疾患や肝硬変から診断に至ることがある。
4. 治療法
一次胆汁酸製剤の内服は有効である。具体的には、コール酸(オファコル®カプセル)単独、ケノデオキシコール酸(チノ®カプセル)単独、あるいは両者の併用療法の有効性が報告されている。 このうち、長期的な有効性と安全性が確立しているのは、HSD3B7欠損症およびSRD5B1欠損症に対するコール酸単独投与である。 日本では、2023年6月より先天性胆汁酸代謝異常症の治療薬としてコール酸が使用可能となった。 HSD3B7欠損症およびSRD5B1欠損症では、肝硬変進行前にコール酸:5~15mg ⁄ kg ⁄ 日(分1〜3、最大750mg ⁄ 日)、ケノデオキシコール酸:5〜15mg ⁄ kg ⁄ 日(分2〜3、最大600mg ⁄ 日)の単独または併用投与を開始すれば、胆汁うっ滞性肝障害の改善が期待でき、内科的治療が可能となる。 CYP7B1欠損症は肝硬変への進展が速いが、生後早期からケノデオキシコール酸を投与することで、胆汁うっ滞性肝障害から回復することがある。 これらの疾患では、胆汁うっ滞性肝障害からの回復後も、生涯にわたり一次胆汁酸製剤の内服継続が必要である。 BAAT欠損症では、グリココール酸:15mg ⁄ kg ⁄ 日(日本では未承認薬)の使用報告がある。 SLC27A5欠損症では、ウルソデオキシコール酸:5〜15 mg ⁄ kg ⁄ 日の投与が行われる。
5. 予後
HSD3B7欠損症およびSRD5B1欠損症では、肝障害が進行する前にコール酸やケノデオキシコール酸などの一次胆汁酸製剤を用いて早期に治療を開始すれば、胆汁うっ滞性肝障害が改善し、内科的治療が可能となるとともに予後も改善する。しかし、早期発見は難しく、診断が遅れると肝移植が必要となる場合がある。CYP7B1欠損症については、これまで一次胆汁酸製剤による内科的治療は困難と考えられていたが、早期にケノデオキシコール酸を投与することで胆汁うっ滞性肝障害から回復した症例も報告されている。いずれの疾患においても、一次胆汁酸製剤により胆汁うっ滞性肝障害が改善した後も、生涯にわたる内服継続が必要である。
<診断>
A. 主要症状(以下のうち1つ以上の項目を認める)
- 遷延する黄疸
- 肝腫大
- 灰白色便
- 体重増加不良、低身長
- 鼻出血などの出血傾向、貧血
- 脂溶性ビタミン欠乏症
B. 血液検査
- 直接ビリルビン・AST・ALTが上昇している。
- 血清総胆汁酸が正常、γ-GTPが正常か軽度上昇している。
- 血清総胆汁酸が上昇、γ-GTPが正常か軽度上昇している。
- 血清総胆汁酸が上昇、γ-GTPが上昇している。
- 血清LDLコレステロール、中性脂肪が上昇している。
<HSD3B7欠損症、SRD5B1欠損症、CYP7B1欠損症>
1 + 2を認める
<BAAT欠損症、SLC27A5欠損症>
1 + 3を認める
<AMACR欠損症>
1 + 4を認める
<CYP7A1欠損症>
1 + 5を認める
C. 尿中(もしくは血中)胆汁酸分析
<HSD3B7欠損症、SRD5B1欠損症、CYP7B1欠損症、AMACR欠損症>
疾患特異的異常胆汁酸または胆汁アルコール比率の上昇が認められる。
<BAAT欠損症、SLC27A5欠損症>
非抱合型胆汁酸比率の上昇が認められる。
D. 遺伝学的検査
先天性胆汁酸代謝異常症では疾患責任遺伝子が同定されており、原因遺伝子 HSD3B7、SRD5B1、CYP7B1、BAAT、SRC27A5、AMACR、CYP7A1にエンコードされる各酵素の合成障害により発症する。胆汁酸分析結果から疑われる疾患の責任遺伝子を解析し、ホモ接合体もしくは複合ヘテロ接合体の病的変異を検出する。
<診断のカテゴリー>
HSD3B7欠損症、SRD5B1欠損症、CYP7B1欠損症、AMACR欠損症、BAAT欠損症、SLC27A5欠損症
- Definite: Aの1項目以上、かつB、Dを満たす。
- Probable: Aの1項目以上、かつB、Cを満たす。
CYP7A1欠損症
- Definite: Aの1項目以上、かつB、Dを満たす。